教室 - 森川美穂
ひとしきりはげしい風が
教室のガラスをたたく
あのひとの机にすわり
さよならを唇にする
突然ですが 退学します
二学期からは もう会えません
いらなくなった この教科書に
写真を入れて 残しておくわ
言いそびれましたが 好きでした
真夏日の太陽だけが
校庭を駆け足してる
あのひとの弾んだ声を
聞くこともふたたびないわ
突然ですが 退学します
いまから町を 出るところです
理由はあとで 人の噂で
おそらく耳に はいると思う
言いそびれましたが 好きでした
私の名乱暴な字で
黒板に大きく書いた
あのひとのはにかむ顔が
目の裏に焼きついている
突然ですが 退学します
思い出だけは 大事にします
心をこめて 涙とともに
一礼するわ この教室に
言いそびれましたが 好きでした
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